360度評価とは?
「360度評価」は上司からのフィードバックだけでなく、同僚や部下、さらには本人の自己評価からも集めるという人事評価のシステムです。
従来の人事評価で取られてきた上司が部下を評価する方式では偏った見解が生じることがあり、従業員の納得感を欠いていました。
「360度評価」は、この問題に対する解決策としてバランスの取れた評価の期待ができる評価システムです。。
この評価システムの導入で、従業員は多角的な視点での評価を受け取り、より納得のいくフィードバックを受けることが可能となります。
その結果、業務への献身度や組織へのコミットメントが高まるとともに、人材の育成や指導への方向性も明確に。
特に最近では、テレワークの普及に伴い、直接的なコミュニケーションが少なくなった中で、この評価方法が企業間で注目されているのです。
2020年に実施された調査(㈱リクルートマネージメンントソリューションズ)によると360度評価を導入する日本企業は2018年には11%程度でしたが、2020年には30%を超えており企業での360度評価の導入が実際に進んでいます。
360度評価を取り入れるメリット
360度評価は現代の人事評価において注目されている手法ですが、実施する意味やメリットは非常に多岐にわたります。
評価の多角性 | 複数の関係者からのフィードバックを受けることで、公平かつ客観的な評価を期待できる。 |
評価の納得度 | 従業員が納得できる評価結果が生まれ、感じる不満や誤解が減少する。 |
人間関係の理解 | 組織内の人間関係やコミュニケーションの質が明らかになり、必要な対策を講じやすくなる。 |
自己認識の深化 | 従業員が自らの評価をし、他者の視点を取り入れることで、新しい自分の側面に気づく機会が増える。 |
上司の質の向上 | 管理職が部下からの評価を受け、そのフィードバックを活用して自身の成長やチームづくりに役立てることができる。 |
360度評価は従業員の成長だけでなく、組織の健全性や成果向上にも大きく貢献する評価システムと言えます。
2022年に行われた360度評価についての調査結果でも【360度評価の対象者が良いと感じる点】として、上記と同様の項目が挙げられています。
特に最も多い回答である、「上司と部下など社内での縦のコミュニケーションが良くなった・影響があった」については他の調査からも年に1回以上、360度評価を実施している企業の方が上司と部下の信頼関係が良好である割合が高いという結果が出ています。
360度評価のデメリット
360度評価は従業員の多面的な評価を可能にする方法として多くの企業で採用されていますが、一方で「意味がない」と言われてしまう背景として以下のようなデメリットが挙げられます。
評価が主観的になる | 評価をする従業員が主観を持ち込んでしまうことがあるため、評価の公平性が保たれない場合がある。 |
上司の指導や育成への影響 | 部下が上司を評価するシステムのため、上司が部下からの評価を気にし過ぎると、真摯な指導ができなくなる可能性がある。 |
評価が馴れ合いになる | 従業員同士の評価で、仲の良い間柄であれば高評価を、仲の悪い間柄であれば低評価をすることが考えられる。 |
お互いの不信感の増加 | 全員が評価される側・評価する側となるため、不信感や緊張感が生まれる。 |
一貫性の不足 | 評価の方法や基準について十分な理解がない従業員による評価は、一貫性に欠けることがある。 |
評価の工数と時間の増加 | 全従業員が評価をすることになり、結果として時間や労力の増加が生じることがある。 |
SNS上でも実際に評価作業の負担や評価コメントの難しさから360度評価に対して「つらい」という意見も見受けられます。
360度評価のレポートを書く対象者が多くて中々つらい ちゃんと書くためには気力が必要なのよ
— まんじまる (@_manji0) February 24, 2022
360度評価まじでつらいんですけど…
なぜ私に依頼してきたんだ
あなたがなんの仕事してるのかよく知らんけど私…— そら (@cielnocturne726) November 26, 2021
これらのデメリットを克服するための具体的な策を講じることが、360度評価を成功させる鍵となります。
360度評価を導入した企業・自治体の実例
トヨタ自動車
2019年、トヨタ自動車は労使間交渉で、管理職がメンバーの意見を無視する傾向があるとの指摘を受け、360度評価の導入を決定しました。
2020年には、関連企業も含む1万人以上の課長級以上の管理職が最初の評価対象となりました。
評価基準は「人間力」を中心に設定し、社外を含む複数の評価者からのフィードバックを収集。
評価者が真実の意見を自由に述べられるよう、口頭での評価を選択しています。
評価の結果、適性に欠ける管理職は昇格のチャンスを失うだけでなく、降格の可能性が浮上することも。
トヨタのこの取り組みは360度評価を単なる評価ツールとしてではなく、組織全体の文化改革や人材育成の一部として位置づけている点が特徴的な事例です。
石川県庁
石川県の馳知事は最近、石川県庁の管理職職員の評価方法として「360度評価」を導入する計画を明らかにしました。
馳知事は、この評価方法を通じて「チーム力の向上」や「自由に意見を言える、人権が尊重される職場の実現」を目指す予定です。
さらに、新たな評価項目として「豊かな発想力」や「報道各社とのコミュニケーション能力」の導入も検討中です。
しかし、制度導入に際しては、その理解が不十分であると、不信や不満が生じるリスクも考慮し、その周知や制度の設計には慎重を期す構えを示しています。
石川県庁内には「上司主導の体質」や「前例重視の風潮」などの問題が指摘されていたため、この新しい評価方法が組織の体質改善やサービスの質の向上に繋がることを期待されています。
360度評価の項目設定のポイント
1.評価の目的と方向性を明確に
360度評価を効果的に活用するためには、その評価が何のために行われるのか、その目的と方向性を明確に持つことが重要です。
評価の目的が不明確だと、評価項目の選定や評価の解釈がばらつき、結果として一貫性のないフィードバックが返ってきてしまいます。
目的を明確に設定することで、評価の内容も具体的かつ明確になり、管理職や従業員が具体的な改善点や成長の方向性を見出しやすくなります。
人事担当者としては、この目的と方向性の設定を初めのステップとして念入りに行うことが大切です。
2.多様な視点をバランスよく取り入れる
360度評価の最大の特長は、多角的な視点からのフィードバックを収集することにあります。
これにより、上司だけでなく同僚や部下、時には外部ステークホルダーの意見も反映され、より総合的な評価が可能となります。
しかし、これらの視点を適切にバランスをとることが重要です。
例えば、同僚の意見だけに偏重してしまったり、上司の評価が過度に重視されると、評価の意義が損なわれる可能性があります。
人事担当者としては各視点の重要性を理解し、適切な比重で評価項目を設定することが求められます。
3.具体的かつ行動指向の項目を設定
抽象的な評価項目よりも実際の行動に焦点を当てた具体的な項目を設定することも成功のポイントの1つです。
例えば、「コミュニケーション能力」を評価する際、具体的な行動指標として「チーム内での情報共有の頻度」や「他部門との連携の取り組み方」を設定すると、評価者は明確な基準で評価を行えます。
このように行動指向の項目を設定することで、受け取るフィードバックが具体的かつ実践的になり、結果として従業員の具体的な成長や改善策の提案が容易となります。
評価項目の設定時にはこの点を注意しましょう。
まとめ
「360度評価」は多角的な視点からの人事評価方法として知られ、上司のみならず同僚、部下、そして本人の自己評価からフィードバックを集めるシステムです。
昨今、大手企業や公的機関でも導入例が見られ、360度評価は現代の人事評価のスタンダードとなりつつあります。
従来の上司中心の評価に比べ、公平でバランスのとれた評価が可能となり、従業員の納得感や組織の健全性を向上させることが期待されます。
しかしながら、評価が主観的になる、馴れ合いの評価、不信感の増加などのデメリットも存在します。
成功するためには、評価の目的や方向性の明確化、多様な視点のバランス、具体的な行動指向の評価項目の設定に注意しましょう。