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人的資本経営とは?取り組むためのポイントと成功事例

人的資本経営とは?

人的資本経営は、組織の競争力向上、生産性の向上、従業員の満足度の向上など、多くの利点をもたらす重要な戦略です。組織は従業員を資産として捉え、彼らを活用し、育てることで、持続可能な成功を達成することができます。

人的資本経営とは?

人的資本経営とは経済産業省により、以下のように定義されています。

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

出典:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省

人的資本経営が注目される背景

アメリカでは、1993年から有形資産よりも無形資産投資が増えていき、2015年は9割近くが無形資産投資になりました。

人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~

日本の企業で一般的ないわゆる「メンバーシップ型雇用」は、企業が従業員を採用する際に、業務内容や勤務地に拘束せず、雇用契約を結び、従業員は多岐にわたる業務に従事する雇用スタイルです。これは、終身雇用を前提とし、新卒者を一括採用する特徴があります。このメンバーシップ型雇用が限界を露呈してきました。

人を資源として捉えていたため、管理の対象としてしまい、社員の自律性、自立性を削いだのではないかとされています。

人的資本経営のメリット

人的資本経営の推進には、企業側にもさまざまな利点があります。以下にそのメリットを簡潔に説明します。

はじめに、従業員の幸福度と関与度が向上し、生産性と創造性が増加します。人的資本経営は、従業員の働きがいを高め、彼らが自分の仕事に誇りを持ち、積極的に取り組む環境を整えます。これにより、生産性とアイデアの発想が向上するでしょう。

つぎに、従業員がキャリアパスを築くことで、雇用安定が増し、離職率が低減します。このアプローチでは、従業員の成長と企業の成長を調和させ、従業員はスキルや才能の向上を支援されるので、自分のキャリアを設計できます。これが雇用の安定性を高め、離職率を減少させます。

また、従業員の多様性と個性を尊重し、革新と新規事業の創出に寄与するのです。人的資本経営は、多様性を奨励するため、異なるバックグラウンドを持つ従業員が自分らしく活躍でき、新しいアイデアや発見が生まれやすくなり、革新的なアプローチや提案が促進されます。

そして、ステークホルダーとの強化された関係で、組織のブランド価値が向上するでしょう。人的資本経営は組織の使命に従業員が共感し、社会的責任を感じることを奨励します。これにより、信頼性が高まり、組織の評判やブランド力が向上します。

人的資本経営に取り組むための「3つの視点」

「人材版伊藤レポート1.0」では、人的資本経営を取り入れるために、現場での推進をどのようにすればよいかを「3つの視点」(3P)と人的資本の「5つの共通要素」(5F)(「3P・5Fモデル」)としてまとめられています。

1.経営戦略と人材戦略の連動

人材を最大限に活用して経営目標を達成するために重要です。経営目標において鍵となる要素を特定し、それに基づいて人材の方針を設定します。特に、CHRO(最高人事責任者)の設置が非常に重要です。CHROは人材戦略全体を統括し、従業員、投資家などステークホルダーとの対話をリードします。

経営と人事の視点から人材戦略を立案し、会社全体の発展を促進します。CEOとCHROは、人材戦略の遂行に向けて解決すべき課題を洗い出し、経営陣と協議します。進捗状況を共有し、改善を継続的に進めることが大切です。

2.「As is‐To beギャップ」の定量把握

人材アジェンダごとに設定した目標(KPI)と、現在の状況(As is)と目指すべき未来の状況(To be)の差を数値で把握することです。これによって、人材戦略が経営戦略と連動しているかどうかを評価し、人材戦略を継続的に改善するための情報を得ます。大事なのは、ギャップの大きさではなく、ギャップを埋めるための戦略を考えることです。

改善が必要な指標や、従業員のスキルや経験に関する情報は、人事データとして整備し、データを効率的に収集・分析できる体制を整えておくことが重要です。定量的に評価する項目や指標は、経営陣と議論するために、進捗状況と一緒にリスト化しておくべきです。

3.企業文化を確立するために

ギャップを把握した後、戦略を策定し、PDCAサイクルを使用してギャップを埋めながら、企業文化を根付かせていきます。このようにすることで、経営戦略と人材戦略の連動度を高められます。

文化を確立させるための具体的な対策には、企業の価値観や成功につながる行動態度が従業員に浸透するようにするために、評価システムの改善を考えたり、CEOやCHROと従業員との対話の機会を設けることが含まれます。従業員との対話は、企業の優れた文化を促進し、必要な場合には見直す手助けだけでなく、従業員の会社への帰属意識を育むのに役立ちます。

人材戦略に必要な5つの共通要素「5F」

  1. 動的な人材ポートフォリオ
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
  3. リスキル・学び直し
  4. 従業員エンゲージメント
  5. 時間や場所にとらわれない働き方

多くの異なる人々が自分らしい方法で働けるような多様な人材チームを組み立て、また、個々のメンバーやチームを活発にさせ、生産性を高め、新しいアイデアや革新を生み出すための取り組みが推奨されています。

成功事例

旭化成株式会社

理想的な経営ビジョンを実現するために「人財ポートフォリオ」を活用しています。このポートフォリオは、採用と育成計画に影響を与え、また、M&Aやベンチャー企業との連携を通じて、優秀な人材を獲得する取り組みを行っています。

さらに、同社は、事業分野に関係なく強化したい専門分野を「コア技術領域」と定義しました。高度な専門性を持つ人材を人財ポートフォリオで明確にし、計画的にその専門性を持つ人材を増やしています。

旭化成 人材戦略

キリンホールディングス株式会社

人々の個性や強みを活かして、ヘルスサイエンスやICTなどの新しい事業に進出することを決定しました。この戦略に基づいて、専門的な知識や経験を持つ人材を積極的に採用し、新しい事業への参入に成功しました。

会社は、人材に関する情報を公開し、例えばキャリア採用率や女性経営職率などを共有しています。将来的には、人材育成や従業員の流動性、多様性に関する情報も強化して公表する予定です。

キリングループの人財戦略

KDDI株式会社

新入社員のやる気を高めるために、異なる方法を導入しました。一つはコース別の採用(WILLコース)で、ここでは初期の配属エリアが保証されており、新入社員はネットワークインフラエンジニアやソリューションエンジニアなど、いくつかの選択肢から自分の希望する配属先を選ぶことができます。もう一つは通年採用で、2021年から開始され、学生の学業スケジュールに合わせて柔軟に採用を行います。

2021年度よりKDDI新卒採用で通年採用を開始

まとめ

人的資本経営を成功させれば、企業の生産性を向上させることができます。

人的資本経営は、従業員の育成とやる気を高め、最高のパフォーマンスを引き出し、高い生産性を実現します。人材ポートフォリオの構築や従業員のやる気向上など、実施するべき取り組みはいくつかありますが、まずは経営戦略と人材戦略を結びつけ、課題の特定と目標の設定が必要です。

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