2023年7月28日、今年度の最低賃金の改定について、全国平均の時給を過去最大の41円引き上げ、現在の最低賃金の全国平均である時給961円から、1,002円とする目安がまとまりました。全国平均の時給が1,000円を超えるのは初めてです。
経営者には耳の痛い話
最低賃金の上昇は2022年10月に引き続き2年連続。物価高、増税に加え人件費の増加は企業にとっては大きな負担となるでしょう。
しかし、そんな中、日本で最低賃金の最大約1.7倍の賃金でアルバイトを採用し続けている企業があるのはご存じでしょうか。それがコストコです。
コストコはアメリカ発のメンバーシップ制倉庫型店舗で、大容量の商品をリーズナブルな価格で提供しています。食品、日用品、家電など幅広い品揃えとバルク販売(大量購入や一括購入を意味し、一度に多くの商品をまとめて購入することで、個別の単価を下げる販売方法)が特徴です。
今日はなぜコストコがそんな高い賃金を払うのか、払うことができるのか、その謎と戦略に迫ります。
コストコの時給、最低賃金の1.7倍
以下の表はコストコのスタート時給を示しています。注目すべきなのはコストコが「日本全国どこでも同じ時給」であるということ。コストコには同じ仕事をしている人は社員でもパートアルバイトでも同じ賃金を払うというポリシーがあります。
日本で最低賃金が最も低い沖縄などの時給は現在853円なので、コストコで働くことになれば、なんと最低賃金の1.7倍がスタート時給になるということです。東京の最低時給は1,072円ですので、都市部でもこのスタート時給は十分に高額だと言えます。さらにコストコでは
会員制度であるメリット
コストコの年会費は個人会員で4,840円とエグゼクティブになると9,900円と決して安くはありません。しかし、この会員制度がコストコの差別化であり、成功の秘訣ともいえるのです。
・会員費がそのまま利益となっている
コストコはそもそも、商品販売で儲ける仕組みにはしていません。そのため会員費だけで安定的な利益が成り立っているのです。
・前払いのため顧客が元を取ろうとする
メンバーシップは1年更新となっているため、顧客は先一年間コストコで買い物ができる権利を買うのです。そうすると自然にすでに支払っている会費分元を取りたいという心理が働き、多くの場合、必要以上の買い物をさせるのです。
・特別感がSNS時代にマッチ
会員限定にすることで顧客の優越感をくすぐり「自慢したい」という気持ちにさせることでSNSでの口コミが広がりました。前出のようにコストコは宣伝をしないのですが、会員制とすることで会員が勝手にコストコを紹介したくなる仕組みを作ったのです。
・入場制限で万引きロスを抑える
コストコは顧客やスタッフによる盗みの被害が著しく低いことが分かりました。米Barron’sによると、その他のスーパーにおいては、盗みによる損失は年間セールスのうち0.5%から1%にまでのぼる一方で、コストコでは0.12%だといいます。出入り口を1つにするという店舗構造、スタッフによる出口レシートチェックも一因ではありますが、会員制にすることで質の高い顧客のみに門戸を開け万引きのロスが減ったのです。
番外編:時給が低くても働きたいのはスターバックス
一方、時給が低くてもアルバイトの募集に困っていない企業もあります。それがアメリカのコーヒーチェーン、スターバックスです。その平均時給はIndeedによると901円と、全国平均を下回っているにもかかわらず、様々なウェブサイトを調べても、その求人倍率は少なくとも10~20倍とのこと。ツナグ働き方研究所によるアルバイト採用ブランドランキング2017でも『学生がアルバイトしたい企業3年連続1位』となっています。
「ツナグ働き方研究所」アルバイト採用ブランドランキング2017
昭和の時代、かつて働き手が重要視していたのは「場所」「時間」「給与」だったのに対して、近年の働き手は「仕事で成長できそう」「働く仲間が素敵」といった「仕事」「環境」「仲間」を重要視するようになってきています。つまり、“働きやすい”職場から、“働き心地”のいい職場へのシフトが進んでいるのです。
こうした最近の若者の志向を捉えている代表格がスターバックスで、実際、スターバックスは、この人手不足の時代にもかかわらず、アルバイト採用において求人有料メディアを利用していません。職場のイメージがブランド化し、店舗そのものがまさに「採用メディア」としての役割を担っていることを意味しています。
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働き手の使い捨て時代は終わった
「コストコのように大企業はいいけれど、そんな高い時給は払えない!」「スターバックスのような企業イメージもない!!」と思われた経営者の方は、ここで現実を見てみましょう。
2023年の帝国データバンクのデータによると『非正社員の人手不足を感じる企業』は8割と業界別で旅館・ホテル・さらにスターバックスを含む飲食業界が突出しており、コストコ含む飲食料品小売業界も56%と高水準であることがわかります。
人材不足に賃金上げで、苦しい状況はどこも一緒でしょう。すぐにでもコストコやスターバックスになれということではありませんし、そんなことは無理であっても、その経営戦略からは学ぶことができる部分があったのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。コストコやスターバックスの経営戦略がヒントになりましたでしょうか。
「1人辞めたらまた1人雇えばいいだろう」という働き手を使い捨てる時代はもう終りました。最低賃金が値上げされても、もともと高い賃金を提示し、人手不足とは無関係であろうコストコですが、それを羨むより、その低コスト構造やお金を使わないPRの仕組みを学んだほうが、はるかに生産的でしょう。賃上げは一時的には痛手になりますが、採用や教育コストの削減や人材不足の防止につながる長期的な戦略になります。
人手不足が叫ばれる業界では、人件費は削るのではなく、むしろ予算を割くべき部門であり、その代わり経営陣はいかに別でコストカットができるか考える必要に迫られています。
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