育児休業の取得状況公表が義務化に
2023年4月に従業員1,000名を超える企業において男性育休取得率の開示が義務化されました。
具体的には、年に1度、前事業年度における男性の育児休業の取得状況を公表することが求められます。
公表される内容は以下のいずれかです。
・男性の育児休業などと育児目的休暇の取得割合
これにより、企業が育児休業を取得する労働者に対して配慮を行うことが期待されています。
男性育休取得率の現状
あなたの会社の男性従業員は育休を取っていますか?
もし取っているとしたらそれはどれくらいの期間ですか?
6月27日、株式会社パーソル総合研究所が発表した、「男性育休に関する定量調査」の結果によると
男性育休取得率50%以上の企業が約2割ある一方で、取得率5%未満の企業が約半数であることが分かりました。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
また、男性育休の取得期間を見ると、1か月未満の取得者の割合が約6割を占めており、取得期間は休暇レベルにとどまっていることが明らかになりました。
結果を見るとお分かりになるように、男性の育休取得は推奨されているものの、企業間でまだばらつきがあるようです。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
世界がうらやむ日本の男性育休制度の実態
驚くべきことに男性育休について海外サイトをリサーチすると
『日本は母親とは別に父親も1年間有給で育児休業を取得できる素晴らしい制度を持っている!!』と紹介されています。
欧米諸国では日本より長期間の育休が取れたとしてもパートナーとシェア、つまり母親か父親2人分でその期間、というのが一般的であるからです。
(引用:Countries With the Best Maternity and Paternity Leave)
しかし、日本の現実は皆さんも近年の出生率のニュースなどで見聞きされているように日本の出生率は先進国で最低レベル、
男性育休取得率は女性が85%なのに対してたったの14%であり、存在していても利用できない、机上の空論状態となっています。
ではなぜ制度があるにもかかわらず、日本企業では男性の育休取得が進まないのでしょうか。
男性育休取得が進まない企業側の理由
育休取得したくてもできない社員には『収入の減少、同僚上司への迷惑、昇進への影響』がありますが、企業にとっても多くの懸念点があるのが事実です。
以下のグラフは人事担当が答えた男性育休に対する課題です。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
男性育休取得を推進し、出生率を上げたい政府と、人手が不足しており、一時的にいなくなる社員のためにそのスポットをカバーするほどの余裕がない企業との間に埋まらないギャップがあるのが分かります。
さらに男性の育休推進はここ数年でじわじわと浸透してきた制度のため会社の評価制度などが追い付いていない、
前例が少なく、企業側が十分に準備できていないのが原因としてあるでしょう。
しかし、以下のグラフを見ればわかるように、育休取得を希望するのは20代男性社員で75%超えと若い世代こそ育休を望んでいるのです。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
男性育休取得が会社にもたらすメリット
あなたの会社で男性育休の制度が整備されていないとしたら、それだけで優秀で若い人材をみすみす逃しているかもしれません。
それはもちろん男性のみに言えることではなく、誰もが育休を取りやすい環境を整備することは人材育成にもなるのです。
ここでは男性育休取得が企業にもたらす様々なメリットの中から4つご紹介します。
①人が育つ
以下のグラフは不在時のマネジメント方法を表しています。
緑が『中長期の育休に肯定的な上司』でグレーが『肯定的でない上司』です。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
マネジメントの上手い上司は、育休で欠員が出た業務を他メンバーの育成のために上手く仕事を割り振ったり、
ときには外注を利用して社内業務の調整をできるのです。そんな仕事のできる上司ほど男性従業員の長期育休に肯定的なのが分かります。
育休取得を促せば欠員が出ます。しかし、その欠員が出ることはマネジメント力や個々の能力を高めるチャンスになります。
また次のグラフは育休を取得した男性スタッフが答えた『育休の経験で身についた能力』の回答です。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
育児は毎日がプラン通りにはいかないことの連続です。また、言葉の分からない幼児の要求を理解しようとする姿勢はコミュニケーション能力の向上に役立ちます。
一日の中でこなさなくてはならない膨大なタスクを管理する力は仕事復帰後もジョブパフォーマンスを向上させます。
さらに、育休や育児を経験した従業員は他者への理解も深まり、周囲に気を配り、協力する姿勢を持つようになり、社内の人間関係がスムーズになることが期待できます。
②優秀な人材が採用できる
以下のグラフは従業員300人以下の企業が『男性育休を推進する目的』をその取得率ごとに表した表です。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
社員300人以下の中小企業は大手企業に比べ人材確保が困難と言われていますが、多くの男性社員が育休を取得している育休取得率80%以上と答えた企業の回答を見ると、推進理由の第三位に優秀な人材の確保があがっています。
大手企業に比べ、中小企業は知名度も低く、給与や待遇も優れていない場合も多いでしょう。しかし、そこで男性育休を進めることは優秀な人材を採用するために有効であるということが明確です。
育休を推進している企業は、男性育休推進が過酷な人材の陣取り合戦の秘訣であると気づいているのです。
③企業イメージがアップする
以下の表は『男性育休推進の目的と取得率の関係』を表しています。
取得率が高い企業ほど『企業イメージの向上』を目的の第一位に選んでいるのが分かります。
(引用:パーソル総合研究所 男性育休に関する定量調査 )
良い企業イメージを持つ企業は、顧客からの信頼を獲得しやすくなります。信頼される企業は、顧客のニーズや期待に応え、優れた製品やサービスを提供することができます。
それにより、顧客のロイヤルティが高まり、継続的なビジネスや口コミによる新規顧客の獲得が促進されます。
また、従業員は自身が誇れる企業で働くことでモチベーションが高まり、パフォーマンスや生産性の向上につながります。
④男女平等が進む
男女平等が叫ばれる現代ですが、日本企業には男女不平等がまだまだ多く存在しています。
BIGLOBEが2020年に発表した、「男女平等に関する意識調査」によると、20代から60代の働く466人に「あなたの職場で男女による不平等を感じることを教えてください」と質問したところ、
男性の不満は「仕事における責任の重さ」「男女による不平等を感じることはない」「昇級や昇格のしやすさ・機会」となりました。
一方、女性の不満は「昇級や昇進のしやすさ・機会」「給与額の設定」「仕事における責任の重さ」「雑用・雑務を割り当てられること」となりました。
この結果により、職場の不平等の認識には男女でギャップがあることが明らかになりました。
(引用:BIGLOBE 「男女平等に関する意識調査」)
男性が育休をとることができれば、企業で活躍したいとくすぶっている女性が活躍する機会は増え、それにより、現在重い責任に不満を感じている男性が減る可能性があります。
男性育休を推進することはこうした職場内の男女の不満解消につながり、従業員のエンゲージメントやモチベーションを高めることができます。
さらに多様なアイデアや意見が集まることで、問題解決や意思決定の質が向上し、組織全体のパフォーマンスが向上することが期待されます。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、男性の育休取得は【攻め】の人事戦略であることをお伝えしました。
「育休?福利厚生でしょ?それは人が集まってから…」などと後回しにするのではなく、育休促進は今すぐ打ち出すべき【攻め】の人事戦略です。
男性の育休取得はマネジメント力や個々の能力向上の機会になるだけでなく、優秀な人材の確保や企業イメージの向上、男女平等の推進にもつながる企業にとって一石二鳥以上のメリットがあります。
日本の男性育休制度は海外からも注目を集めるほど充実していますが、まだ十分に活用されていません。
企業側の懸念点や評価制度の追い付いていない面もありますが、積極的に男性育休を推進することで人材の育成や企業の成長につながることを認識してください。
ぜひこの機会に男性育休を積極的に推進し、経営者・人事担当者の方々の意識改革と行動を促していただきたいです。