マネジメント

組織がビュートゾルフの高いパフォーマンスから学べること ~誰にでもわかるティール組織~

この連載について

本稿では、意思決定におけるパラダイムシフトによって、ビュートゾルフの組織構造とその結果として高い組織パフォーマンスが、ひとつの原則(どのような組織にも採用可能な原則)によって説明できることを紹介します。

ビュートゾルフを例にとり、あらゆる組織が従業員の才能をフルに活用し、組織のパフォーマンスの劇的な向上を提案します。(仕事の満足度の向上は言うまでもありません)

必要なのは、意思決定をよく観察し、それを回避または最小化(原則)することです。

 

ビュートゾルフの業績は(自営に関心のある組織だけでなく)すべての組織に関連する

ビュートゾルフは、2006年に設立されたオランダの組織で、その名は「近隣ケア」と訳されています。
ビュートゾルフの目的は、患者ができるだけ自分のことは自分でできるようになること

ビュートゾルフは約1万5000人の看護師を雇用し、オフィスは50人以下、コーチは20人で構成されています。
このオフィスでは、約1,000の自己管理チームをサポートしています。

ビュートゾルフの業績は、財政面、医療の質(患者の満足度)、仕事への満足度など、すべてにおいて飛び抜けて「良好」です。
業績の詳細については、
カルーディスのシステム概要を参照してください。

長年、ビュートゾルフの働き方は注目を集めてきました。
その最大の理由は、フレデリック・ラルー(Frederic Laloux)の『Reinventing organisations(組織の再発明)』(2014年)です。

この本は、最も売れている経営書のひとつであり、「ティール組織論」を紹介したものです。
ティール組織とは、「全体性」「進化目的」「自己管理」を特徴とする組織のことを言います。

ビュートゾルフには1000近い自主運営チームがあるため、ラルーのベストセラーでも大きく取り上げられています。

この組織と業績、そして創設者ヨス・デ・ブロック(Jos de Blok’s)の構想と情熱は、この著書を読んだティール組織の改革、あるいはセルフマネジメント に興味を持った多くの人々に影響を与えました。

この記事では、ビュートゾルフのパフォーマンスと、その達成方法にはどのような組織にとっても劇的に良い影響を与える教訓があることを紹介します。(組織の改革やティール、セルフマネジメントに興味がない場合も同様です。)

どのような組織であれ、業績を向上させるために重要なのは、ヒエラルキー(階層)を捨てることではなく、ヒエラルキーの意思決定を捨てることです。

それは、組織における専門知識を最大限に活かすことを妨ぐからです。
それによりリスクが増え、組織は悪化の一途をたどることになるでしょう。

 

“誰にでもわかるティール組織”、すべての人に高いパフォーマンスを

ビュートゾルフは、ラルーが本を出版するずっと前から成功していました。
ビュートゾルフをティール組織と呼ぶのは間違いだと、私は思います。

それは、ビュートゾルフが提供する貴重な教訓や見識を、人々(組織)が見過ごしてしまうことにもなりかねないからです。

本書の『Reinventing organisations(組織の再発明)』の魅力は、ほぼすべての組織で改善できる点がたくさんあることを、すべての従業員が容易に認識できる点にあるのかもしれません。

ティール組織は「セルフマネジメント」を、柔軟性、迅速性、透明性、有効性、回復力、異なるタイプのリーダーシップ、従業員の完全な自律性、そしてその他の要素の中心的な柱として受け入れています。

この記事では、ある決断が本当は何なのかをよく見極め、それを回避もしくは最小限に抑えるようにすることで、上記の問題のほぼすべてが達成できることを示します。

これは、ほとんどの組織にとって、階層的な意思決定から(徐々に)離れていくことを意味します(例えば、承認によって管理する、など)。

そのためには、組織が利用可能な専門知識をよりよく活用するための条件を整える必要があるでしょう。
意思決定を最小限に抑え、組織のリスクを軽減することで、パフォーマンスを向上させることができます。

これを “誰にでもわかるティール組織 “と呼ぶのは、単なる皮肉にすぎません。
本当に高いパフォーマンスは、すべての人の手の届くところにあるのです。

ビュートゾルフは、高いパフォーマンスと比較的シンプルな構造、そして経営に関する文献の知名度の高さから、意思決定を最小化するために何が必要なのか、そしてそれがどのように組織のパフォーマンスを高めるのか?を説明するのに、最適な組織のひとつです。

 

ビュートゾルフの成功を解くにはどのように、何をまねればいいのか?

ビュートゾルフについてはすでに多くのことが書かれていますが、果たして他に比べて何が新しいのでしょうか?

ビュートゾルフの組織モデルが、世界的に知られるようになってから10年が経過しました。

それ以来、ビュートゾルフの働き方はあらゆる理由で多くの人々の関心を集めています。
これは、極めて公平な階層構造、伝統的な部署の不存在、自己管理型チーム、リーダーシップ(またはその不在)、財務実績や顧客・従業員満足度における成功などです。

このような関心は当然のことでしょう。
ビュートゾルフの成功は多くの経営者の常識を覆すものであり、従業員に与える自主性は非常に魅力的です。

しかし、そのほとんどが普遍的な魅力と、その特徴をまねしようとする数々の試みにもかかわらず、その成功の “秘密 “は特定されておらず、ましてや再現すらされていません。

これは、さまざまな領域における「新しい働き方」に関心のある組織だけでなく、諸外国で近隣ケアを提供する組織にも当てはまるでしょう。

そのなかで見過ごされ続けていることがあります。

シェフ、レシピ本、食材リスト

ビュートゾルフの “モデル “は、それが例え実体験的なもの、経営学の文献、あるいは講座の中であっても、多くのことを学ぶことができます。

しかし、これらはビュートゾルフが何をしているのか、それがビュートゾルフにとってどう機能するのかを説明しているだけにすぎません。

ビュートゾルフの組織について、どれだけ詳細に説明されたとしても、多くのヒントを与えてくれる以上に、他のほぼすべての組織にとって実用的な役には立たないでしょう。

なぜ事例研究が役に立たないかを説明するためによく使われる例に、シェフとレシピ本の利用ユーザーの違いがあげられます。

成功した組織の場合、その組織が成功に至るまでにどのような教訓を、どのような順序で学んだかという実績がない場合、私は「シェフ」と「食材リスト」に例えるのがより適切だと考えています。

あなたが、レシピ通りにティラミスを作ることはできても、食材リストしかなかったらどうでしょうか?

見落とされがちなのは、「限定的な適応性」の原則です。

 

ビュートゾルフにあてはまる「限定的な適応性」の原則

ビュートゾルフの仕事のやり方では、「限定的な適応性」の原則を守っています。
つまり、ビュートゾルフの組織的成功をもたらした構造を再現することは不可能かもしれないし、賢明ではないかもしれません。

これはもちろん、すべての優れた業績を上げている組織の構造にも当てはまります。

ビュートゾルフの働き方は、特殊な状況に適したユニークな歩みを続けてきた結果なのです。
この高いパフォーマンスは、組織モデルをコピーしただけでは真似できません。

ビュートゾルフの仕事のやり方は、特殊な状況の上に成り立っています。
例えば、

・比較的安定した環境で運営されている
・専門知識(有資格の看護師)を特定するのが容易
・従業員のほとんどが実際に同じ専門知識を所有している
・チームの複製が容易(別の地域のカバーが可能)
・成果を測定するのが比較的簡単

の場合などがあげられます。

また、ビュートゾルフにとって、その成功には重要な「初期条件」がありました。

ヨス・デ・ブロック(Jos de Blok’s)は、ビュートゾルフを設立する前に、医療制度がどのように運営されているかを熟知していました。

また、彼は組織の “リーダー “として、実際に介護の経験があり、それに加えて、まっさらな状態からスタートしました。

さらに、長年にわたり、原則に基づいた安定した指導力のもと、文化、仕事の進め方、そして全体的な成功の重要な要素である相互作用を発展させてきました。 

ビュートゾルフの経営陣は、成功のために本当によく働いたのです!
しかし、ビュートゾルフの成功がすべての組織に教えてくれることもあります。

 

ビュートゾルフのパフォーマンスは、ひとつのパラダイムシフトに基づき説明が可能

とはいえ、ビュートゾルフの組織パフォーマンスからは、いくつかの重要な教訓が得られます。
それは、ひとつの枠組みから派生した、たったひとつの ” 第一の原則 ” の実践の上に成り立っている、ということです。

パラダイムシフト(後述)とは、それぞれの決断がリスクを増大させる特殊な選択であることを知ることです。

第一の原則とは、意思決定を回避する(実際には最小化する)ことを指します。
もしそれを回避できないのであれば、関連するリスクの軽減のためにどうするべきか検討するべきでしょう。

 

ヨス・デ・ブロック(Jos de Blok’s)の常識的なアプローチ

.次の記事のタイトルは『Jos de Blok and the “Decision Free Leader”』です。

この記事では、意思決定に関するパラダイムシフトについて説明し、またこのシフトが(ヨスにとってもそうであったように)ごく常識的なものであることについても説明しています。

それは異なったリーダーシップルール(組織全体に見られる役割)を自動的に適用するものです。

ヨスがビュートゾルフを設立したのはティール組織以前のことで、当時、彼はパラダイムシフトを念頭には置いていませんでした。

従業員の専門知識をフルに活用したいのであれば、意思決定を最小限にすることは当然のことです。
ヨスがうまくやったのは、そのための条件を整えた(守った)ことでした。

彼はいかなる経営面の関わりを持たない中で、どのように自らのリーダーとしての役割を形成し、生きてきたのか、それがその条件のひとつです。

組織がビュートゾルフから学べるのは、第一の原則(文脈にとらわれない)を一貫して実行することで、(ビュートゾルフの構造は文脈に特化していますが)専門知識を活用するための条件をいかに整えるか、ということです。

そして、「専門知識の活用」こそが、高いパフォーマンスをもたらすのです(リスクを減らし、その結果コストも削減できます)。

 

ティール組織と意思決定についてもうひとつ

ティール組織に関して言えば、セルフマネジメントを実施する場合、ラルーはまず意思決定のプロセスが最も重要であるとしました。

ヒエラルキーがなくなった瞬間、ヒエラルキーに代わる意思決定を見つける必要があり、ヒエラルキーを放棄できない、あるいは放棄したくない組織においても、代替案を見つける必要があります。

ティール組織では、「助言や」「同意に基づく」「発展的な」意思決定など、階層的な意思決定に代わる方法が数多く提案されています。 

これらの方法はすべて、より多くの専門知識をその過程に導入するものです。

しかし、これらの方法は意思決定を最小限にするものではなく、リスクとして特定するものでもありません。
おそらく、次の記事で説明するようなパラダイムシフトが、既存のティール組織のパフォーマンスをさらに向上させるのに役立つでしょう。

 

この記事はWhat your organisation can learn from Buurtzorg’s high performance — 1: “Teal for dummies” (and high performance for all)の翻訳転載です。著者のJorn Verweijさんの許可を得て公開しています。

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